最高のジャケットの追求

ディオールオムのジャケットと言えば、作りの良さ、シルエットの良さ、着心地共に既製服(プレタポルテ)の中では最高峰とも言われている、ブランドを代表するアイテムです。 ジャケットを作る一連の作業を担うアトリエは、エディ・スリマンが2001年にディオールオムを立ち上げたときから続いており、デザイナーたちが専門的なデッサン画から現クリエイティブディレクターであるクリス・ヴァン・アッシュのクリエイションを製作しています。 ジャケットはメンズのワードローブの中心的なアイテムであり、高い縫製技術を完璧に使いこなすことが要求されるアイテムです。制作工程の数は250にも渡り、250人の職人がそれぞれの工程を担当していると言われています。

複雑なパターン

まずはパターン(型紙おこし)の作業です。職人が正確にクリエイションのシルエットを型紙、生地へと描き、切り出されます。 ここでの職人の動きは代々受け継がれてきたもので、的確なタイミングでハサミを操りながら、襟、折り返し、端、裾、ボタンホールが瞬く間に見定められます。表地24、裏地27の合計51もの複雑なパターンから構成されると言われています。

重要な「芯地」

次は、芯地の工程に移ります。ジャケットは、表地・裏地・芯地の三つから構成されています。 芯地はジャケットの構成上、表地と裏地の間に挟まれるのですが、ジャケットの質と着心地の大半は芯地の構成と素材で決まるため、この芯地は特に重要とされています。 そのため、芯地には全て天然素材のウールと馬地を使用しており、ウールで馬地を挟む構成となっています。 馬地はウールより少し固めで着崩れや型崩れを起こさない効果があり、それを挟む天然ウールは軽くしなやかで通気性が良いため動きやすく着心地がよく、湿気が溜まらないので、生地が痛まず、スーツが長持ちするのです。 職人は生地の厚みの間にこの芯地を差し込みます。目には見えませんが、特定の場所に理想のハリを生み出します。芯地は土台となって内側からシルエットの曲線を保ち、型崩れを防ぎます。 折り返しのライン、肩の張り出し部分、胸元の丸みは、この作業なしには存在し得ないのです。 芯地を表地に固定するため、手作業で丁寧に一針一針縫い付けていきます。この緻密で正確な作業は、メゾンが毎シーズン続けることで継承しているまさに職人技です。

職人技の数々

こうして組立て作業の段階になると、ジャケットがいよいよ形をなし、襟とフェルトの折り返しを加え、次に袖を縫い付けます。 袖の結合部はジャケットの中でも一番動かされる部位であり、ここを機械で縫合してしまうと、伸縮性に欠けた、窮屈なスーツになってしまうため、袖の縫合は全て手作業で行われます。 同様の理由で襟周り(首周り)も全て手縫いで行われます。ディオールオムのジャケットは非常にタイトでありながらも、窮屈感が無くしなやかで動きやすいのはこの職人技によるものです。 ちなみにディオールのスーツの裏地は、素材や質感は違っても、どの部位も基本無地なのですが、袖の裏地だけストライプ模様になっており、これは、ムッシュクリスチャンディオールによるブランド創設時からの伝統を今でも受け継いでいるのです。 袖が取り付けられると、工程は最終局面に移り、ボタン付けの工程へと移るのですが、実はここでもディオールならではの拘りが見られます。

貴重なボタン

ディオールは黒を基調としたブランドのため、ジャケットのボタンも基本黒なのですが、ボタンは黒く染めている訳ではありません。 ここで使用されるボタンはなんと天然の水牛の角を使用しており、その角の中でも、黒い部分の尖端の極一部分という、非常に貴重な部分を使用しているのです。 そして、ボタンが付けられた後、仮縫いの抜糸や品質チェックなど、いくつかの最終調整を経て、検査を通過したもののみが世界中の店舗に並ぶこととなるのです。

最高のジャケット

ジャケットという一見プレーンなデザインのアイテムではありますが、それとは裏腹に内部構造は複雑に作られており、非常にタイトでありながらも袖を通したときの心地良さを感じることができるのは、職人たちの技術によって実現された賜物です。 コレクションショーで発表される服はある見方をすれば「奇抜な服」でしかありませんが、それらは伝統ある熟練の職人たちの手による確かな技術によって生み出されているのです。モダンなデザインとトラディッショナルな技術との共存がそこにはあるのです。
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