エルメスを代表するアイテムのひとつに、カレ(Carre)があります。エルメスでいう「カレ」とはスカーフのこと。正方形をしていることから、フランス語で正方形を意味する「Carre」(カレ)と名付けられました。
カレのサイズ
エルメスのカレには決められたサイズがあります。一般的によく知られているのが、90cm四方のもので、これは、1937年にカレが初めて作られた時のサイズでした。
その他、最大のもので140cm四方のショールや、やや小ぶりの70cmのタイプ、55cm、45cmのものなどがあります。
また、5cmほどの幅で長さ86cmと細長く作られた「ツイリー」と呼ばれるタイプ、20cm幅で220cmの長さの「マキシツイリー」などもあり、サイズだけでも幅広いバリエーションがあります。
カレの作業工程
エルメスのカレは、一枚一枚熟練した職人たちの手作業によって作られます。シルク産業でも知られるフランスはリヨンにあるアトリエ「Atelier A.S.」の、全長120mにも及ぶプリント台の上で染められていくカレ。
色合いを決めるカラーリストが、原画を元に染料の配合を決定し、シルクが染まりやすいように試行錯誤を繰り返します。
その後、染色する前の「フィネス」と呼ばれる状態のカレに、多い時で40色近くにもなる色を一色ずつ染色していくといいますから、その工程は大変なものでしょう。
全て染め終えるのに数百時間かかることもありますし、エルメスのカレで表現可能な色は、6万色とも7万色とも言われています。
全て染め終えても、それで完成ではありません。版ズレや色ムラなどがないか厳重なチェックを受け、そこで不具合が見つかったものは、その場で処分されます。
無事チェックを通った物は、染めたてでゴワついている生地を、何度も入念に手洗いをかけて柔らかくしていきます。そして最終的な仕上げとして、縁をかがり縫いしていきます。
隠された秘密
実はエルメスのカレは、どんな形に結んでも表側が出るようになっている、と言われており、これには四辺の縫い方に秘密があるとされています。その縁のかがり縫いは、やはりベテランの職人が担当し、1枚のカレをかがり終えるのに、30分はかかるそうです。
また、初めてのカレが「オムニバスゲームと白い貴婦人」というタイトルで作られて以来、1枚1枚のカレに全てタイトルが付けられており、物語があります。
エルメスの5代目社長ジャン・ルイ・デュマによると、カレのタイトルは、その絵柄と同じように大切にされているそうで、「短く、的確で、輝きがあるもの」が良いとされています。
カレを手掛けるデザイナーたち
そのエルメスのカレは現在までに、実に数多くのデザイナーが手掛けています。ウローデク・カミンスキー、ローランス・バーソロミュー、アニー・フェーブル、ロベール・ダレ、アントワーヌ・カルボンヌなどいますが、最も有名なのは、アンリ・ドリニー(Henri d'Origny)でしょう。
アンリ・ドリニーは多くいるカレのデザイナーの中でも、唯一エルメス社専属のデザイナーです。「式典用馬勒」(Brides De Gala)や「黄金の拍車」(Eperon Dor)など、何十万枚も売れる大ヒット作を世に送り出していますが、自身は「自分の気に行ったものを作る」「売れるためのデザインは考えない」というポリシーを貫いています。
それでも毎年必ず1つは彼の新作が発表されているといいますから、エルメス社がアンリに対して置いている信頼は、絶大なものと言ってよいでしょう。
その他に人気のカレデザイナーというと、ディミトリ・リバルチェンコ(Dimitri Rybaltchenko)が挙げられます。ディミトリは世界各地を旅して、その旅先で見た光景からインスピレーションを受けた絵柄がよく見られます。
例えば、ネパールを訪れた時の光景を表現した「風の中の祈り」(Prieres Auvent)や、マサイ族の日常を描いた「ケニアの真珠」(Perles du Kenya)など、市井の人々の様々な姿を美しく落とし込んだ作品が発表されています。
エルメスのカレは、1枚1枚が洗練された絵画のようで、中には額縁に入れて飾っている人もいるというくらい、コレクターズアイテムとなっています。
最後に、エルメスの職人さんがすすめる、カレを丁寧に使うための3カ条を挙げると
- ハリがなくなるので、手洗いはせず、技術のあるドライクリーニングに出す。
- 雨粒には有害物質が含まれているので、雨には濡らさない。
- 香水は、スカーフを巻く前につけて、最低でも15秒ほどおいてから巻く。
以上を守って大切に使えば、時代を超えて愛用し続けられるのが、エルメスのカレ。1枚1枚に込められたストーリーを感じながら、芸術的な絵柄の数々をコレクションしたくなるファンが多くいるのも、うなずけるのではないでしょうか。