5代目会長 ジャン・ルイ・デュマ

1978年からエルメスの5代目会長に就任したジャン・ルイ・デュマ。彼はフランス最高のエリート養成校であるフランス国立行政学院、通称ENA(École nationale d'administration)で学んだ後、アメリカの高級百貨店などでバイヤーの経験を積み、エルメスでは職人見習いとしてスタートしています。 ジャンが会長就任後にまず手掛けたのは、広告によるブランドイメージの刷新でした。広告スタッフの増員、若い女性モデルを使った大胆なビジュアルなどで、「新しいエルメス」をアピールしました。 また、スカーフの図柄も多色化しバリエーション豊かに展開していきます。その一方で、エルメスの核である伝統的な職人技の維持と向上にも力を注ぎました。 エルメスが培ってきた技術だけに固執することなく、世界中の優れた職人たちの現場を訪問し、新しい技術の吸収も怠りませんでした。 1984年には、かの有名な「バーキン」(Birkin)を発表した他、コーヒーカップやディッシュなどテーブルウェアの分野にも進出しました。 また、1987年からはブランドの年間テーマを設定するようになりました。この年のテーマは、「花火」(Feux d’Artifice)。エルメス誕生150周年を記念して「花火の夕べ」が開催され、音楽にあわせて打ち上がったセーヌ河の花火に、パリ市民たちが歓声をあげたといいます。

エルメスのブランド力

この1980年代以降は、エルメスのみならず世界市場に向けて規模が拡大していく中で、供給を追いつかせるため、多くのブランドが効率化の波に乗っていきました。 ところがエルメスは、徹底した品質主義を貫き、生産が追いつかなくなったら迷わずオーダーをストップしていました。 こういった姿勢がエルメスのブランド力の強さにもつながる結果となり、ジャン・ルイ・デュマの手腕の高さを物語っていると言えるでしょう。 1990年には、「フルーツライン」が登場、1998年にはキャンバス地が斬新でカジュアルさから人気を博した「フールトゥ」を発表するなどし、2000年代にかけて売上を4倍にまで拡大してきたエルメス。 2004年には、ブランド史上初となる一族外の人物、パトリック・トマ(Patrick Thomas)が共同CEOに就任しています。彼は1989年にマネージングディレクターとして入社した人物でした。

LVMH買収への抵抗

1980年代からのエルメス躍進の立役者となったジャン・ルイ・デュマは、惜しくも2010年に亡くなりますが、同年、数々のブランドを買収してきた巨大グループ、LVMH(ルイヴィトンモエヘネシー)がエルメスの株を17%所有していると発表、買収に乗り出しているのではないかと噂されました。 それに対してエルメスは一族が結束し、エルメス株を50.2%所有する持ち株会社「H51」を設立、断固買収への抵抗を示します。最終的には両社は和解し、LVMHは買収をしないことになりましたが、この一件によってエルメスの団結が固まったことが、今後の展開にも効果をもたらしたと言ってもよいでしょう。 現在では2013年より新CEOとして、元CEOの甥にあたるアクセル・デュマ(Axel Dumas)を迎え入れ、さらなる飛躍を目指しています。
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