ブランド、ルイヴィトン(Louis Vuitton)の母体となるモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(Moët Hennessy ‐ Louis Vuitton SE)、通称LVMHは、パリに拠点を置き、60近くのハイブランドを持っている他、免税店のDFSグループをも抱える巨大企業です。
カルティエ(Cartier)やラルフローレン(Ralph Lauren)、クロエ(Chloe)などを抱える「リシュモン」(Compagnie Financière Richemont SA)や、グッチ(Gucci)やバレンシアガ(Balenciaga)、ブシュロン(Boucheron)などを傘下に持つ「ケリング」(Kering)などと並んで、ファッション業界の世界3大企業と言われています。
ただし、1987年にルイヴィトンとモエヘネシーが合併した2年後には、「カシミアを来た狼」の異名をとる実業家ベルナール・アルノー率いるクリスチャン・ディオール(Christian Dior)がLVMHを買収しています。ですので、正式にはLVMHグループは、クリスチャン・ディオールSAの下にあることになります。
LVMHでは、ブランドイメージの保持やプロダクトの高いクオリティー維持のため、各ブランドの独立性を保証しています。そのため、LVMHに含まれる各ブランドはそれぞれ、自社のブランドイメージを保ったまま、独自にマーケティング戦略をたて、独自のプロダクトを生み出し、自社の発展に対して責任をもってあたっています。ですから、知らない人から見ればそのブランドがLVMHに属していることすら気づかないようなブランドもあるのです。
LVMHは5つの事業セクションから構成されています。その5つのセクションとは、「ワイン&スピリッツ」「ファッション&レザーグッズ」「パフューム&コスメティックス」「ウォッチ&ジュエリー」「セレクティブ・リテーリング」で、それぞれのセクションに名だたるブランドがずらりと並んでいます。
ワイン&スピリッツ事業
こちらの事業では、ドン・ペリニヨン、モエ・エ・シャンドン、ヴーヴ・クリコなどのシャンパンと、世界市場の4割を占めるヘネシーのコニャック、この二本柱を中心として、ポーランド生まれの高級ウォッカ「ベルヴェデール」や、スコットランドで愛飲されるシングルモルト「グレンモーレンジィ」など、幅広く酒作りを展開しています。
ファッション&レザーグッズ事業
スペイン王室御用達の老舗レザーブランド「ロエベ」、高級レザーシューズブランド「ベルルッティ」、色彩も鮮やかなプリントで魅せる「エミリオプッチ」、フランスの老舗メゾンである「ジバンシィ」、そしてもちろん中核となるルイヴィトン。その他多数のブランドが、それぞれの個性を主張しながらぶつかりあうことなく共存しています。
パフューム&コスメグッズ事業
200年近い歴史を誇る老舗「ゲラン」のほか、「パルファン・クリスチャン・ディオール」「ケンゾー・パルファム」「パルファム・ジバンシィ」などが、香水だけでなく、スキンケア製品、メイクアップ製品などを展開しています。ちなみにアパレルと同名のブランドであっても、その運営は別で行われています。
ウォッチ&ジュエリー事業
高級腕時計や宝飾、ジュエリーを展開しています。エル・プリメロなどの名作ムーブメントで時計マニアを虜にする「ゼニス」、競技計測などにも協賛し、スポーツシーンに欠かせない「タグホイヤー」、歴史が浅いながらも「Fusion(融合)」というコンセプトで急成長を遂げた時計メーカー「ウブロ」、五大宝飾メーカーのひとつで200年以上の歴史を持つ「ショーメ」、世界に名を馳せる宝飾ブランド「ブルガリ」など、魅力的なブランドラインナップと製品群を誇ります。
セレクティブ・リテーリング事業
世界最大の免税チェーンであるDFSほかのサービスを持っており、ヨーロッパ、国米、アジア、中近東で、旅行者を対象としたリテーリング事業と、セレクティブ・リテーリング事業の2軸で展開しています。
また近年では、2014年から、「LVMHヤングファッションデザイナープライズ」というアワードを開催し、若手ファッションクリエイターの育成や支援をしているだけでなく、福島県相馬市とタッグを組んで、「子どもアートメゾン」をオープン。日本におけるLVMHグループの、東日本大震災の被災地に対する復興支援の一環として、PTSD対策や情操教育などのプログラムを実施する、などの新しい取り組みも行われています。
最近の動向としては、2016年7月に、ダナキャランインターナショナルを売却すると発表しています。売却先は、カルバンクラインやトミー・ヒルフィガーなどを有するアメリカのアパレルグループ「G-Ⅲ」。LVMHのマネージングディレクターによると、「G-Ⅲはダナキャランを一段階押し上げる可能性を秘めている」と語っており、双方にとってメリットのある契約となったようです。
2016年現在、グループ全体の売上が4兆円を超える巨大企業LVMH。その動向は、ファッション業界のみならず、経済界全体が注目するところではないでしょうか。