数々のアイディアで世間を驚かせた、サルバトーレフェラガモ(Salvatore Ferragamo )は、新しいスタイルを次々と生み出し、天才と呼ばれました。
彼のコレクションの中でも、革命的であると言われたのは、1947年に発表された「見えない靴」です。
インスピレーション
きっかけは、とあるバイヤーが全く目新しいヒールの靴を彼にリクエストしたことでした。
それを聞いたサルバトーレは、フェローニ・スピーニ宮殿の窓辺に寄りかかり、川釣りを楽しむ人々を眺めていた時、魚を持ち帰ってきた人に、魚にはナイロン製の釣り糸が見えない、との一言を言われ、この見えない靴のアイディアを思いつきます。
彼はこの靴を作るために、当時実用化されてからまだまもない新素材のナイロンを使用しました。
「見えない靴」
1本のナイロン糸を内底の両サイドへとくぐらせ、甲の中央の細いカーフ等へと刺しとおし、また内底へ、と言う作業を何度も繰り返し形成している甲の部分は、ナイロンの透明性によってあたかもストラップ部分が浮いているかのように見え、見る人に不思議な印象を与えます。
まるで彫刻かのような美しさを見せているFのアルファベットを模したウェッジ・ヒールもサルバトーレの発案であると言われています。
彼は、ウェッジソールのヒールの部分をナイフで彫って、底をほとんど削り取ることによりヒールの部分を戦艦の船首かのように彫刻します。
大胆な曲線使いを施したヒールは一見不安定に見えますが、緻密な構造計算によって支えられた技術で履き心地の良さを生み出しています。
斬新な素材の使い方、新しいフォルムを生み出す創造力、機能性の追求、これらを表現したフェラガモの見えない靴からは、靴作りに対して真摯な姿勢が感じられます。
反響
あまりにも足の露出が多いため、なかなか爆発的な流行とまではいきませんでしたが、このオリジナリティ溢れるスタイルで、サルバトーレフェラガモはアメリカファッションの最高峰であると言われるニーマン・マーカス賞を受賞しました。
この賞をアメリカ人以外が受けたのは、彼が初めてでした。
戦後のアパレル業界へ大旋風を巻き起こした革新的な素材、ナイロンを使用して女性の繊細さと神秘性を、見えない靴によって表現することに成功したサルバトーレフェラガモは、生まれながらの靴職人であり、その生涯を通じて足と靴を研究し続けました。
偶然が積み重なり生まれたこの見えない靴も、彼の創造力と妥協を許さない物作りへのこだわりの賜物です。